自動車整備士の給料は低すぎる?
日整連の統計によると、整備士1人あたりの年間整備売上高は1,486万円、この中から整備士に支払われている平均年収は417万円です。これを多いと見るか、少ないと見るかは人によるとは思いますが、「顧客にはレバ8,000円を請求しているのに、どうして自分の給料はこんなに低いのか」とギャップを感じて独立する整備士は少なくありません。
整備要員1人あたりの年間整備売上高 | 1,486万円 |
整備要員の平均年収 | 417万円 |
自動車整備工場の開業が失敗しづらい理由は?
自動車整備業は他業種と比べて失敗しづらい業種です。
私自身、自動車整備業、カー用品通販業、不動産賃貸業、菓子製造業、ホームページ制作業など様々な事業に携わった経験がありますが、その中で最も失敗しづらいと自信を持って言えるのが自動車整備業です。
これは統計でも裏付けられます。
以下は中小企業庁がまとめた、業種別の廃業率(=1年以内に何%の事業所が廃業するか)の抜粋です。これを見ると、自動車整備業の廃業率が極めて低い水準にあることが分かると思います。
業種 | 年間廃業率 |
---|---|
宿泊業,飲食サービス業 | 5.9% |
生活関連サービス業,娯楽業 | 4.8% |
小売業 | 4.4% |
建設業 | 3.1% |
製造業 | 3.0% |
医療,福祉 | 2.4% |
自動車整備業(認証) | 1.3%(出典:日整連) |
自動車整備業の廃業率が低いのには、以下のような理由があります。
理由1:車両保有台数が増え続けている
「若者の車離れ」と言われて久しいですが、この60年間、自動車保有台数はほぼ一貫して伸び続けています。車両保有台数の増加が、自動車整備業の需要を支えています。

理由2:車両には定期メンテナンスが必要
日本では安全性確保を目的として車検制度が存在するため、顧客は2年ごとに必ず来店します。また、半年ごとにオイル交換に、1年ごとに定期点検に来店するのが一般的です。家電や自転車などとは異なり、販売後も継続して売上が立つことも自動車整備業の強みです。
理由3:参入障壁がある
どんなに需要があっても参入障壁のない業界は廃業率が高くなります。たとえば、飲食店や美容室などは需要が大きな反面、誰でも簡単に開業できてしまうため競争過多となり、廃業率が高い業種となっています。
一方、自動車整備業に参入するためには運輸局の認証を取得する必要があります。これには一定程度の知識・手続き・資金などが必要となるため、「試しにちょっとやってみよう」という軽い気持ちで参入しようとする事業者を遠ざけ、結果として競争過多になるのを防ぐ役割を担っています。
参考:自動車整備工場が認証工場になる条件とは?
自動車整備工場の社長の平均年収は?
では、自動車整備工場を開業するといくら稼げるのでしょうか?
統計データはないので確かなことは言えませんが、私の周りの社長たちの話によると平均年収は600万円前後だと思われます。ここだけを聞くとあまり儲からないと感じるかも知れませんが、軽く1,000万円以上稼いでいる社長もたくさんいます。
この業界にいる方であれば想像つくと思いますが、社長の高齢化が進んでいるため開店休業状態の店も多く、そういう店も含めると平均としては低くなってしまいます。
私の経験として言えることは、行動力と考える力さえあれば自動車整備工場を開業して1,000万円以上稼ぐことは難しくないということです。
自動車整備工場の開業で儲かる人の特徴は?
私は仕事柄、独立する整備士と話す機会が多くあります。その中で、成功する人の特徴だと感じるものが3つあります。
特徴1:お金儲けが好きな人
意外かも知れませんが、自動車整備工場の社長の多くはお金儲けに興味がありません。車を触ることが好きだったり、家業を流れで継いだというだけで、「どうやったらもっと儲かるか」と四六時中考えている社長は少数派です。そのため、お金儲けが好きな人にとっては競合に差をつけやすい業種です。
特徴2:接客が得意な人
儲かっている社長たちは、自動車整備工場を経営する上で必要なのは高度な整備技術ではなく接客力だと口を揃えて言います。なぜなら、顧客は整備技術の高低を判断できないため、リピートするかどうかを接客で決めるからです。一見客をリピーター化できるか否かがビジネスの成功を大きく左右する要因になります。
特徴3:ネットに抵抗がない人
一昔前であれば「ネット集客でアプローチできるのは若い層だけ」というのが常識でしたが、令和5年度に行われた総務省の調査によると、60代であっても8割近くの人がSNSを利用していることが明らかになりました(出典:総務省『令和5年通信利用動向調査』)。そのため、SNSを含めたネット集客は、顧客の年齢を問わず有効な集客手段となります。
業歴の長い自動車整備工場の社長は、「ネット集客は客の質が悪いからやらない」とよく言います。確かにネットから来る人の中には、安さだけを求めていたり、態度の悪い人が一定数いるのも事実です。しかし、この発言は業歴が長く既存客だけで収入が十分にあるからこそ言える贅沢です。
開業してすぐに十分な収入を得るのは容易ではありません。新たに開業する人は、まず客の質を気にせずネット集客を活用するべきです。このとき、ネットに抵抗がない人は、SNS・Googleマップ・ホームページなど次々に挑戦することが苦にならないため非常に有利な戦いとなります。
【重要】目標年収を達成するための事業計画書
目標年収を達成するためには、事業計画書を作成しましょう。「入庫台数がどれくらい必要か」「経費をいくらに抑えれば良いか」などと筋道を明確にすることで、成功に近づけます。
事業計画書を作成する手順は以下の通りです。
手順1:目標手取りを決める
まずは、目標手取りの年額を決めます。
今回は、目標手取りを420万円(=月35万円)として話を進めます。実際に、独立して良かったと感じられるようになる一つの基準だと思います。
- 補足①:手取り420万円は、額面年収550万円のサラリーマンの手取りに相当します。
- 補足②:借入返済がある場合は、返済額の分だけ、目標手取りを高く設定しましょう。
手順2:目標年収を調べる
目標手取りに対応する年収を調べます。以下は概算表ですが、より詳細に調べたい場合は「個人事業主 手取り シミュレーション」などでインターネット検索しましょう。
目標手取り420万円に対応するのは年収600万円なので、目標年収は600万円となります。
年収 | 手取り |
---|---|
400万円 | 約290万円 |
500万円 | 約360万円 |
600万円 | 約420万円 |
700万円 | 約470万円 |
800万円 | 約530万円 |
900万円 | 約600万円 |
1000万円 | 約650万円 |
手順3:目標粗利益を計算する
目標年収600万円を月額に換算すると50万円です。月収50万円となるように、月間の事業計画書を作成します。
想定される経費を洗い出した結果、合計が50万円だったため、月収50万円とするには粗利益100万円が必要だと分かります。
項目名 | 月額 |
---|---|
粗利益 | 100万円 |
経費 | 50万円 |
└ 外注費 | 5万円 |
└ 広告宣伝費 | 3万円 |
└ 電話代 | 1万円 |
└ 郵便・配達費 | 1万円 |
└ 水道光熱費 | 2万円 |
└ 地代家賃 | 15万円 |
└ 火災保険料 | 2万円 |
└ 代車維持費 | 5万円 |
└ リース料 | 5万円 |
└ 産廃処理費 | 1万円 |
└ その他経費 | 10万円 |
月収(=粗利益から経費を差し引いた額) | 50万円 |
手順4:目標粗利益構成を考える
粗利益が100万円となるように、月間の粗利益構成を考えます。自社の事業内容をイメージしながら、現実的に達成できる範囲で考えましょう。
たとえば、以下のような粗利益構成が考えられます。整備の入庫台数が月67台、中古車販売が月2台、これは妥当な水準と言えるでしょう。
区分 | 台粗利 | 台数 | 粗利益 |
---|---|---|---|
車検 | 40,000円 | 15台 | 60万円 |
オイル交換 | 3,000円 | 30台 | 9万円 |
タイヤ交換 | 10,000円 | 8台 | 8万円 |
バッテリー交換 | 5,000円 | 4台 | 2万円 |
点検・一般整備 | 5,000円 | 10台 | 5万円 |
中古車販売 | 80,000円 | 2台 | 16万円 |
合計 | – | – | 100万円 |
このように、目標から逆算して事業計画書を作ることで、立ち上げる事業をより鮮明にイメージできるようになります。もちろん、実際に開業すると計画との間にズレは生じますが、事業計画書を適宜修正することで、的確な経営判断を行うための道具として役立ちます。